そこには、「中国の王さまの御殿は、世界一すばらしい。でも、本当に一番すばらしいのは、そのお庭のナイチンゲールの声。」と、書かれてありました。
「わしの庭に住んでいるらしいナイチンゲールとやらを、今夜中に探してまいれ。」
大臣と家来たちはご殿中探しましたが、どこにいるのかわかりません。
困っていると、台所で働く小さい娘が「その鳥なら、毎晩、病気の母さんに食べ物を届けに行くとき、森の中でいい声で歌ってくれるわ。」と言いました。
みんなは、娘を先頭にぞろぞろと森へ出掛けました。
森の奥から、鈴を振るような、きれいな歌声が響いてきます。
「しっ、あれがナイチンゲールよ。」
娘は、枝にとまっている灰色の小鳥に言いました。
「王さまに、あなたの歌を聞かせてあげて。」
娘の頼みを聞いて、ナイチンゲールは、その晩、王さまのご殿にやってきました。
ナイチンゲールは王さまの前で歌いました。
王さまははらはらと涙をこぼして言いました。
「なんてすばらしいのだ。どうか、いつまでもわしのそばにいてくれ。」
その日から、ナイチンゲールはりっぱな鳥かごをいただいて、ご殿で暮らすようになりました。
さて、ナイチンゲールがやっとご殿の暮らしに慣れたころ、遠い国から王さまへ贈り物が届きました。
それはダイヤモンドとルビーで飾られた美しい金のウグイスで、ネジを巻くと尾を振って、それは見事に歌うのでした。
「金の鶯がいれは、わしは、なにもいらぬ。」
その王さまの言葉を聞くと、ナイチンゲールは窓からそっと飛び立って、森へ帰って行きました。
そうして、一年たちました。
ある晩、金のう鶯はブルルル、と言ったきり、動かなくなってしまいました。
王さまは医者や時計屋を呼んで、なんとか金の鶯を歌わせようとしましたが、むだでした。
心棒の折れた鶯を、元のように歌わせることなど、だれにもできなかったのです。
それから、五年たちました。
王さまは、重い病気にかかり、だれもが王さまはもう助かるまいと思っていました。
新しい王さまも決まり、大臣や家来たちは、新しい王さまのあとばかり追いかけて歩いていました。
「頼む。もう一度歌ってくれ。金のウグイスよ。」
病気の王さまはペッドの中で涙をこぼしました。
そのとき突然、鈴を振るような歌声が窓のそばで響きました。
歌っているのは、森のナイチンゲールです。
王さまが苦しんでいることを知って、慰めにきたのです。
ナイチンゲールの声を聞いているうちに王様の体に力がわいてきました。
ナイチンゲールは声をかぎりに歌いました。
(もう一度、お元気になって。王さま。)
その晩、王さまはグッスリト眠り、新しい朝が来たときには、青ざめていた冷たい頬は、ばら色に輝いていました。
「ありがとう、ナイチンゲールよ。これからも、たびたび飛んできて、わたしを励ましておくれ。」
ナイチンゲールが森へ飛んでいったあと、家来たちが部屋へ入ってきました。
家来たちは、てっきり王さまが亡くなったものと思って見に来たのです。
元気になった王さまは、ビックリする家来たちをジロリと見回して、
「おはよう、みなの者。」と、言ったのです。