一本のスプーンを溶かし直して作ったもので全部で二十五人揃っていましたが、そのうちの一人だけは足が一本しかなかったのです。
この兵隊が一番最後に作られたため、すずが足りたくなってしまったのです。
それでもこの兵隊は、一本足のまま、しっかり立っていました。
男の子は、ほかに紙でできたお城のおもちゃももらいました。そのお城の入り口には一人の踊り子が片足を思い切り上げて踊っています。
「ああ、あの踊り子も一本足だ。ぼくのお嫁さんにちょうどいい。」
一本足の兵隊は踊り子に一目惚れして、その夜はおもちゃ箱の中で、踊り子から目を離さずに過ごしました。
ところが明くる朝、窓辺に置かれた一本足の兵隊は,隙間風で窓が開いた拍子に4階から下の道に落ちてしまったのです。
それを通りかかった腕白こぞうが見つけて、新聞紙で作った船に乗せて溝に流しました。
「どこへ行くんだろう。速く、あの踊り子のところに戻りたいな。」
速い波に揺すぶられているうちに、新聞紙の船が破れて、すずの兵隊は水の中へ沈(しず)んでしまいました。
それを餌と勘違いした慌てんぼうの魚が、すずの兵隊を飲み込んでしまいました。
やがてその魚は漁師に釣られて、それを買ったある家のお手伝いさんが、魚のおなかを包丁で切り開いて、ビックリ。
「あら、この兵隊はたしか。」
なんと、魚が買われていった家は、元の持ち主の男の子の家だったのです。
テーブルには、あのお城も載っていて、踊り子はあいかわらず足を高く上げていました。
「やあ、ようやく帰ってきた。ただいま、踊り子さん。」
一本足の兵隊がじっと踊り子を見つめていると、持ち主の男の子が一本足の兵隊を掴んで言いました。
「一本足の兵隊なんて、もういらないや。」
そして、燃え盛るストーブの中に放り込んでしまいました。
兵隊は自分の身体が溶けていくのを感じましたが、どうすることもできません。
「さようなら、踊り子さん。いつまでもお元気で。」
そのとき、ふいに窓が開いて風が吹き込み、紙の踊り子がヒラヒラと舞い上がると、ストーブの中の兵隊のところへ飛び込んできました。
「やあ、来てくれたんだね。ありがとう、花嫁さん。」
やがて、紙の踊り子は燃え尽き、すずの兵隊もすっかり溶けてしまって、ハート型の小さなかたまりになりました。