日语翻译文学作品赏析《異郷》

   2014-06-23 4700
核心提示:ウェルダアの桜大きな河かと思うような細長い湖水を小蒸気で縦に渡って行った。古い地質時代にヨーロッパの北の半分を蔽っていた氷河が退(しりぞ)いて行って、その跡に出来た砂原の窪みに水の溜ったのがこの湖とこれに連なる沢山の湖水だそうである。水は沈鬱に濁っている。変化の少ない周囲の地形の眺めも、到る
ウェルダアの桜

大きな河かと思うような細長い湖水を小蒸気で縦に渡って行った。古い地質時代にヨーロッパの北の半分を蔽っていた氷河が退しりぞいて行って、その跡に出来た砂原の窪みに水の溜ったのがこの湖とこれに連なる沢山の湖水だそうである。水は沈鬱に濁っている。変化の少ない周囲の地形の眺めも、到るところの黒い松林の眺めもいずれも沈鬱である。哲学の生れる国の自然にふさわしいと云った人の言葉を想い出させる。
船が着いてから小さな丘に上って行った。丘の頂には旗亭きていがある。その前の平地に沢山のテエブルと椅子が並べてあって、それがほとんど空席のないほど遊山ゆさんの客でいっぱいになっている。テエブルの上には琥珀こはくのように黄色いビイルと黒耀石のように黒いビイルのはいったコップが並んで立っている。どちらを見ても異人ばかりである。それが私には分らない言葉で話している。
高い旗竿から八方に張り渡した縄にはいろいろの旗が並んで風になびいている。その中に日の丸の旗のあるのが妙に目に立って見えた。
連れの日本人はその連れのドイツ女の青い上着を小脇にかかえて歩いていた。私は自分の重い外套がいとうをかかえて黙ってその後をついて行った。
丘を下りて桜の咲き乱れた畑地の中のみちをあるいた。柔らかい砂地を踏みしめながらあるいているうちに、かつて経験した事のない不思議な心持になって来た。それは軽く船に酔ったような心持であった。そして鉛のように重いアパシイが全身を蔽うような気がした。美しい花の雲を見ていると眩暈めまいがして軽い吐気はきけをさえ催した。どんよりと吉野紙に包まれたような空の光も、浜辺のような白い砂地のかがやきも、見るもののすべての上に灰色の悲しみが水の滲みるように拡がって行った。
「あなたはどうしてそんなに悲しそうでしょう。」
連れの女はこう云って聞いた。
「何も悲しき事はありません」と答える外はなかった。実際何も悲しい事はなかった。しかしまたすべてのものが悲しかったのも事実である。それは自分が悲しいのでなくてむしろ周囲の世界の悲しみが自分のからだに滲み込んで来るように思われるのであった。
これが郷愁ハイムウエーというものだとはその時には気が付かなかった。

ハルツの旅

地理学の学生の仲間にはいって、ハルツを見に行った。霧の深い朝であった。霧が晴れかかった時に、線路の横の畑の中に一疋の駄馬がしょんぼり立っているのが見えた。その馬のからだ一面から真白な蒸気が仰山ぎょうさんに立ち昇っていた。並んで坐っていた連れの男は「コロッサアル、コロッサアル」と呟いていた。私は何となしに笑いたくなって声を出して笑った。連れの男は何遍となく「コロッサアル」を繰返しては湯気の立つ馬をまじまじ眺めていた。
ウワルプルギスナハトには思ったような凄味すごみはなかった。しかし思わない凄味がどこかにあった。お化けは居ないがヘクセンやエルフェンは居そうな気がした。ドクトル、ベエアマンはここで花崗岩の破れ目の出来方について講釈をして聞かせた。
あらかた葉をふるったぶなの森の中を霧にしめった落葉を踏みしめて歩いた。からだの弱そうなフロイラインWは重いリュクサックの紐に両手をかけて俯向うつむきがちに私の前を歩いていた。ブルガリヤから来ているチンネフ君は、いろいろ日本の事を聞きたがって私と並んで足を揃えて歩いた。聞かれてみると私は日本の事を何にも知らないのであった。……
日暮れにツウム・ワイセン・ヒルシュという宿屋についた。食後にみんなが学生の唱歌を歌った。アフリカに行っていたドクトルMはズアヘリ土人の歌というものを歌って聞かせたが、それがどれだけ本当のものに似ているかそれは誰にも分らなかった。日本の歌を聞かせろというので、仕方なしにピアノで君が代のメロディだけ弾いたら、誰かが大変悲しい感じがするではないかと云った。
チンネフ君と一つの室に寝た。室には電燈も何もなかった。蝋燭ろうそくを消したら真暗になった。ひしひしと夜寒が身に沁みた。チンネフ君はベットに這入はいってから永い間ゴソゴソ音を立てて動いていたが、それがどうしているのだか、異国人の自分にはどうしても想像が出来なかった。
翌日はレエゲンシタインの古城を見に行った。ただ一塊りの大きな岩山を切り刻んで出来たものである。何となしに鬼ヶ島を思わせた。囚虜しゅうりょを幽閉したという深い井戸のような穴があった。夜にでもなったら古い昔のドイツ戦士の幻影がこの穴から出て来て、風雨にさらされた廃墟の上を駆け廻りそうな気がした。城の後ろは切り立てたような懸崖で深く見おろす直下には真黒なキイファアの森が、青ずんだ空気の底に黙り込んでいた。
「国の歴史や伝説やまたお伽話とぎばなしでもその国の自然を見た後でなければやっぱり本当には分らない。」誰かの云ったこんな言葉を思い出しながら、一行について岩山を下りた。

アムステルダアム

測候所を尋ねて場末の堀河に沿って歩いて行った。子供の時分に夢に見ていた古風な風景画の景象が到るところ眼前に拡がっていた。堀河にもやっている色々の船も、渋くはなやかに汚れた帆も、船頭のだぶだぶした服も、みんなロイスデエルやホベマ時代のヴェルニイがかっていた。
測候所で案内してくれた助手のB君は剽軽ひょうきんで元気のいい男であった。「この晴雨計の使い方を知っているかね、一つ測って見給え」などと云った。別れ際に「ぜひ紹介したい人があるから今晩うちへ来てくれ」と云って独りで勝手に約束をきめてしまった。
約束の時刻に尋ねて行った。入口で古風な呼鈴よびりんの紐を引くと、ひとりで戸があいた。狭い階段をいくつも上っていちばん高い所にB君の質素な家庭があった。二間ふたまだけの住居らしい。食堂兼応接間のようなところへ案内された。細君は食卓に大きなざるをのせて青い莢隠元さやいんげんをむしっていた。
お茶を一杯よばれてから一緒に出かけて行った。とある町の小さな薬屋の店へ這入はいった。店には頭の禿げた肥った主人が居て、B君と二言三言話すと、私の方を見て、何か云ったがそれはオランダ語で私には分らなかった。
店のすぐ次の間に案内された。そこは細長い部屋で、やはり食堂兼応接間のようなものであったが、B君のうちのがわびしいほど無装飾であったのと反対に、ここは何かしらゴタゴタとうるさいほど飾り立ててあった。
壁を見ると日本の錦絵が沢山貼りつけてある。いずれも明治年代に出来た俗な絵草紙である。天井の隅には拡げた日傘が吊してある。棚や煖炉だんろの上には粗製の漆器や九谷焼くたにやきなどが並べてある。中にはドイツ製の九谷まがいも交じっているようであった。
B氏は私の不審がっているのを面白そうに眺めるだけで、何の説明も与えてくれない。「まあ少し待ってくれ給え」と云っている。
奧の間からこの家の主婦が出て来た。髪が真黒で顔も西洋人にしてはかなり浅黒く、目鼻立ちもほとんど日本人のようである。少しはにかんだような様子をして握手をした。しかし何も話さないで黙ってコオヒイを入れ始めた。
B君の説明によると、この主婦の亡父は航海者であったそうである。両親がたまたま横浜に来ていた時に生れたのがこの娘であった。しかしまだ物心もつかないうちに本国に帰ってしまったので、日本の記憶と云っては夢ほどにも残っていないが、ただ生れた土地と聞くだけで日本の国土に対するゼエンズフトをいだいている。そしていつか一度日本人というものに会ってみたいと云っていた。それを知っているB君は、今日私を見ると、ちょうどいい獲物が掛かったと思って連れて来たのである。
B君のこの仕方は、悪意に解釈すれば私にとってあまり快くは思われない種類のものであった。しかしこの人の剽軽で学者らしく無邪気な、そしてどこか親切な態度に馴れた私はその時でも少しも悪い心持は起らなかった。そして遠い世界の果ての生れ故郷をなつかしがる人の心持も決して悪くは思えなかった。
それにしても主婦の容貌があまり日本人によく似ているから、母親もオランダ人かと念のためにB君に聞いてみたが、やはりまぎれもない生粋きっすいのオランダ人だという事であった。私は不思議な気がした。当人は人から日本人に似ていると云われるのを喜んでいるそうである。
主婦は奧の間から古ぼけた手帳のようなものを出して来た。それをあけて見ながら、何かしら単語のようなものを切れ切れに読んで聞かせた。それは「コンニチワ」「オハヨオ」などというような種類のものであったが、あまり発音が変っているから、はじめは日本語だとは気が付かないくらいであった。何だか聞きとれない言葉が出て来たので帳面を見せてもらうと‘fitots’‘stats’と書いてある。「一つ」「二つ」という数のつもりであった。私は昔の日本の蘭学者のエレキテルなどというような言葉を思い出して覚えず微笑せずにはいられなかった。それから若干の単語の正しい発音を教えてやったりしたが、しかしこれはかえって教えたり正したりしないでそのままに承認してやった方がよいのではないかとも思ってみた。永い間胸に抱いてきた罪のない夢の国の美しい夢を冷たい現実でかき乱すのは気の毒で残酷なような気もするのであった。
(大正十一年十一月『明星』)

 

 
反对 0举报 0 评论 0
 

免责声明:本文仅代表作者个人观点,与日语在线翻译网(本网)无关。其原创性以及文中陈述文字和内容未经本站证实,对本文以及其中全部或者部分内容、文字的真实性、完整性、及时性本站不作任何保证或承诺,请读者仅作参考,并请自行核实相关内容。
    本网站有部分内容均转载自其它媒体,转载目的在于传递更多信息,并不代表本网赞同其观点和对其真实性负责,若因作品内容、知识产权、版权和其他问题,请及时提供相关证明等材料并与我们留言联系,本网站将在规定时间内给予删除等相关处理.

  • 日本小学生作文攻关·用规定词语写作
    在日语的学习过程当中,特别是写作方面,很轻易出现中式日语,其最大的原因就在于没有理解日本人的思维,现在就从日本小朋友出发,看看他们的写作!「手術」(ニンジン・手術・七夕を使った創作) S.Tある七夕の日。男は、手術をすることになっていた。男は
    06-27
  • 日语翻译文学作品赏析《岩波茂雄宛書簡 一九三
    拝啓残暑かえって厳しき折柄いよいよ御清健のことと拝察賀(よろこ)び奉(たてまつ)り候。さて、「日本資本主義発達史講座」の件に関し、昨日編輯会議を開き、先日差上げたる私案及び貴店編輯部案を参酌(さんしゃく)して大体のことを決定仕(つかまつ)り候間諸種の点に関し御懇談仕りた
    06-27
  • 真题听力:20140504初级听力训练
    关键词:バス西山病院市役所程序对比,仅供参考。机器做不到人工智能,请大家谅解,汉字假名的切换、标点符号的准确与否大家不用过于纠结,重点看没有听出来的语句提高自身听力水平即可:)すみません。ちょっとお聞きしますが、このバスは西山病院に行
    06-27
  • 日语翻译文学作品赏析《文学座『夢を喰ふ女』を
    野上彰君の「夢を喰ふ女」の戯曲としての新しさは、現代の生活風景の中から、家族としてもつとも崩壊しやすい条件を持つている人間群をとらえて、それを心理的、もしくは思想的角度からではなく、一種の感覚的角度で、それらの人物個々の生態を描いていることと、戯曲の定石としての構成を無視して、人物の
    06-27
  • 20140301早七点新闻
    关键词:気象庁 津波 警報地名:北海道(ほっかいどう)鹿児島県(かごしまけん)大分県(おおいたけん)種子島(たねがしま)屋久島(やくしま)奄美諸島(あまみしょとう)小笠原諸島(おがさわらしょとう)程序对比,仅供参考。机器做不到人工智能,请大家谅解,汉字假名的切换、标
    06-27
  • 日语翻译文学作品赏析《深憂大患》
    今や我國家、朝鮮の爲めに師を出し、清國の勢力を朝鮮より一掃し、我公使をして其改革顧問たらしめ、我政治家をして、其の參贊たらしむ。朝鮮あつて以來、我勢力の伸張する、未だ曾て此の如きはあらず。此に於てか國民、揚々として骄傲し、朝鮮を以て純乎たる我藩屏と信じ、其政治家は一に
    06-27
  • 柯南OVA10-基德在陷阱岛-最后部分
    选自柯南第十部OVA《基德在陷阱岛》,最后的一部分新一を探してくるの電話しても出ないし,メールしても返事がないしまだこの島のどこかにいるはずだから見つけてとっちめてあるわここにいますな去找新一打电话也不接发短信也不会应当还在这座岛上把他找出来问个明白我就在这啊这
    06-27
  • 第82回J.TEST(A-D级)听力应答问题14
    题目出自第82回J.TEST(A-D级)适用日本语鉴定听力,该应答问题的题型和日本语能力测试听力中的即时问答题题型相同,因此参加J.TEST和日本语能力测试的同学都值得参与!请大家多多支持节目:听写格式范例:(总题号不用听写)
    06-27
  • 第71回J.TEST(A-D级)听力应答问题02
    题目出自第71回J.TEST(A-D级)适用日本语鉴定听力,该应答问题的题型和日本语能力测试听力中的即时问答题题型相同,因此参加J.TEST和日本语能力测试的同学都值得参与!请大家多多支持节目:听写格式范例:どこへ行きますか。1図書
    06-27
  • 20140928NHK19点慢速新闻
    通知:十一期间(10月1日-10月7日)NHK新闻听写暂停更新,特此通知!祝大家节日快乐!关键词:羽田空港ボーイング737型機那覇発羽田フライトレコーダーNHK听写稿常见规范说明 听写:ybyny校对:niuniucow 翻译:jcs1103总校:jcs1103今月6日、
    06-27
点击排行