この作品の特色を現在の舞台条件である程度まで示そうとするには、俳優が自分の肉体を、なるだけ現代の人物の中の特别なタイプにあてはめて、全体の人間群像の生活の中にある官能的なものを強調するという方法によらねばならない。したがつて装置、衣装、メーキャップのようなものは、本来ならなるだけ類型をさけて、様式化したものでやりたいが、現在経済事情その他の理由で演出意図通りのものは得られぬゆえ、その点多少とも手のとどくものの中から選ぶという消極的方法がとられた。
またこの芝居全体として作者が何を言はうとしているかということについては、観客に理解させるということには重きを置かず、感じさせるということに重きを置くのが、ぼくとしてはいいことだと思い、そこを強調しようとする演出の工夫があつた。言いかえればこの戯曲の演出にはオーケストラの演奏のような、調和と旋律をねらつたものであり、そのつもりで観てもらいたいと演出者として希望するのである。(三月十六日談)